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暗殺業の廃棄物(官能の暗殺者5)

作者:5代目スレ920氏
備考1:女暗殺者×役人・悪徳業者
備考2:



――官能の暗殺者5――


 ネーディア市街地の北部、14番通り沿いに建つホテル・グランスターは、官庁街や議
会場に近い。そのため、政財界の要人が密会するためによく利用される。
 別に私は要人ではない――要人だと思う人もいるにはいる――が、彼らとのコネクショ
ンは豊富に持っている。貴族に匹敵する身分とされる高級娼婦だからだ。
 私も何度か泊まったことがある。宿泊履歴と同伴者の名前を確認させれば、予約の有無
などを問われることもない。そこには各界の錚々たる名前がずらりと並んでいるからだ。
 そうして案内されたスイートルームに入り、持ってきた荷物を片づけてふうっと一息。
ルームサービスのコーヒーに口をつける。苦みのある液体が喉を通り過ぎたところでフロ
ントから連絡が来た。私に来客だという。
 部屋に通すように頼んでその客人を待った。私がこの街に来ていることを知っている人
物はそれほど多くもない。誰なのかは見当がついた。
「……やっぱりあなただったのね」
 呼び鈴に応じてドアを開ける。屈強な体つきの男が、その身を収めるには窮屈そうな
スーツをまとってそこにいた。
「この度は見事な任務の達成、感謝いたします。リューシア様」
 私にガイヤー・シュベルンの暗殺依頼を伝えに来た男である。
 リューシアとは私が暗殺の際に使う偽名だ。彼がこの名前を使うということは、暗殺絡
みの用件だろう。
「相変わらず耳が早いわね。私が仕事を済ませたのは昨晩よ? どこから情報が伝わった
のかはわかるけど、すぐここに来るなんて早すぎるわ」
「ご冗談を。我々はそれが仕事ですから。リューシア様ほどの方となればすぐに伝わりま
すよ。興味を持たれるのは暗殺業よりも男女関係のほうですが」
 相変わらず表情に変化もなく、この男は淡々と事実だけを告げてくる。
「こちらがこの度の暗殺の報酬です。お受け取りください」
 手渡された封筒には高額紙幣がぎっしりと詰まっていた。それが2つ。200万という
ところか。
「依頼した事件師連中も喜んでおりました。これでシマを荒らされずに済む、と」
「ふうん、そう。今後ともよろしくって伝えておいてね」
「かしこまりました。ですがリューシア様、この度はもう1つ、お話があるのです」
「ふうん、どんな話?」
「はい、この度のクライアントがお目通りを願いたいと」
 私は軽く思案する。確かに私はガイヤー・シュベルン暗殺を果たしたが、その依頼者の
素性は知らない。事件師グループと聞いていたからマフィア絡みであろうが、どんな連中
かは聞いていなかった。
「いいですよ、今夜この部屋に連れてきて」
「かしこまりました。しかし連中はリューシア様とのお目通りなどおこがましいようなチ
ンピラどもです。くれぐれもご注意を」
「ああ、平気平気。そんなの気にしなくていいわよ。ご忠告ありがと」
 退室していく男を見送ってからシャワーを浴び、着替えて夜になるのを待った。

 そして夜。私の部屋には柄の悪い中年男性が3人やってきた。
 案内してきた昼の男が3人に睨みを利かせていたが、彼が退室した途端、男たちは私へ
の不躾な視線をためらわなくなった。
 今は肌の露出度が高い服は控えていた。婦人用のドレスシャツを身につけ、下半身も黒
のパンツスタイルにまとめている。オフィスで働く女性が上着を脱いだような印象のはず
だが、この男たちにはむしろ逆効果だったかもしれない。
「あんたが、今回の……驚いたな、こんな美人さんが人殺しかぁ…」
 テーブルを挟んだ向こう側のソファに3人が座っている。右端の男が関心と興味を隠さ
ぬようにつぶやいた。
「確かに驚いたが納得もできるな。これだけの別嬪が男を誑し込んだら、誰も拒否できん
だろう」
 左端の男が舐め回すような視線を私に絡みつけながらニヤニヤと笑った。
「そんなこともないわよ。あなたたちを連れてきた男なんか、私の誘いに全然乗ってこな
いんだから」
「ええ? あの旦那も?」
「そんな男おるんですか、あんたの誘いを断るたぁ勿体ねえ」
 両端の男が驚いた。そんなに目を剥かなくてもいいだろうに。どうせ「俺なら絶対に拒
否しないのに」とでも思っているに違いない。
「ええ、本当よ。堅物なのよね。誰からどんな暗殺依頼が出てるかわからないから、私と
寝るのは嫌なんだって」
 その言葉を聞いて両端の男はまた驚いた。
「なるほど、なあ……」
「こんないい女になら、殺されてもいいって男もいるだろうなあ」
 それはあなたのこと? …などという言葉は呑みこんでおいた。
「こら、お前ら、その辺にしておけ」
 ソファの真ん中に座った男がおしゃべりな2人を制した。
「へ、へえ。すんません社長」
「謝るんならこちらの方にだろ、お前ら。
 …すみませんな、リューシア様。俺ら、育ちが悪いもんで、偉い人への礼儀とかも全然
わかっとらんのです。ご容赦くだされ」
 社長と呼ばれた真ん中の男が頭を下げた。
「いいのよ、別に気にしてないから」
「そう言っていただけるとありがたいです」
 もう一度頭を下げる真ん中の男。"社長"という呼称が気になった。
「あなたたちが今回の依頼人?」
「へえ、その通りですわ。さっきの旦那からお聞きかと思いますが、ガイヤーの奴、俺ら
の仕事を邪魔してきましてな。どうにもできんのでお願いしたんですわ」
 そこで私はこの仕事を引き受けたときのことを思い出す。あの大柄なメッセンジャーは
確かこう言っていた。「有力政治家のガイヤー・シュベルンが企業舎弟の不正を告発し、
その後の利権漁りのためにシマを脅かそうとしている」と。
 この真ん中の男がその企業舎弟の社長なのだろう。言葉使いは乱暴だが、他の2人に比
べたら、確かに迫力というか自信が感じられる。
「ふうん、あなたが……ガイヤー・シュベルンは始末しておいたけど、これでいいの?」
「もう感謝の一言ですわ。今回は本当にありがとうございます」
 そこで社長は左右の2人を促して立ち上がり、私のに深々と頭を下げた。
「いいのよ、私もちゃんと報酬はもらってるんだし…さあ、座って座って」
 結構気持ちいいセックスもできたしね、と心の中だけでつぶやき、着席を促しながら彼
らに訊ねてみた。
「社長と呼ばれてるわね。どんな仕事を?」
 大方の想像はつく。解体、ゴミ処理、土建、闇金というところか。株や不動産に手を出
すほど知恵があるようには見えなかった。
「へえ、産業廃棄物の処理ですわ。簡単に言えばゴミ捨て屋ですな」
 案の定か。そう思ったところで右の男が話し始めた。
「今までわしらと仲良うしとった産廃処理行政の担当者が、ネーディア市の人事異動で飛
ばされましてな。後任を上手く取り込んだろうと思ったんですが、こいつがまたうるせぇ
奴なんですわ。今まで素通りしてた規制やら接待やら全部拒否して、わしらに法律と手続
きとゴミ処理のルール守れってクソやかましいんですわ」
 真ん中の男が困り果てたように溜め息をつく。
「この人事異動も実は仕組まれたものでしてな。先般の選挙でガイヤーの所属する党が勝
ちまして、市長が変わったんですわ……」

 話をまとめると以下の通りだ。
 市議会選挙で市長と与野党の政権交替がなされた。これが市の職員人事にも影響を及ぼ
したのだ。旧市長派と見られた職員は役所の要職から一掃され、新市長側は新たな体制で
改革を目指すこととなった。
 産廃業者と市職員の接待など、不明朗な癒着が指摘されていたゴミ行政にも改革のメス
が入った。産廃担当の職員は左遷され、新たな職員がそこに収まることとなる。
 市長と改革派与党の後ろ盾を得た新職員は、清廉潔白な行政マンだった。これまで慣れ
合いで済ませてきた様々な不正にもチェックの目を入れるようになったのだ。廃棄物の細
かな分別、不法投棄の監視、有害物質の漏洩を防止する規制の徹底化、業務委託する民間
業者の選定基準を厳格化……。
 それまでマフィアの影をチラつかせて独占的な利権とし、金儲けを続けてきた彼らには
面白くないことばかりだった。
 これらすべての背景にある新市長・新与党派の中で、特に求心力の強い議員が、ガイ
ヤー・シュベルンだったというのである。

 彼らの話を聞きつつ、私は産廃業界の構造を思い出していた。
 金を払ってでも不要物を片付けて欲しいという需要は、行政や企業のみならず、一般家
庭まで尽きることはない。故にこそビジネスが成り立つ。
 だがゴミの扱いなど面倒で不衛生であり、肉体労働の中でもかなりの苦難を伴うことと
なる。だから誰もやりたがらない。
 しかしゴミの処理は日常生活のためにも絶対に必要だ。故にそんな汚れ仕事は食い詰め
たチンピラにでもやらせればいい――そのような歴史的な背景もあり、古くから産廃処理
はマフィアの独占的な利権となってきた。
 だが独占化されてしまったことから、ゴミ処理に本来どれだけの金がかかるのか、その
実態がわかりにくい。本当はもっと安値で済むはずなのに、高額の取り引きを吹っかけら
れている可能性もある。余分に支払った金がマフィアに流れているとなれば、看過するこ
とのできない問題だ。
 だが、同業他社もヤクザ絡みのフロント企業がゴロゴロしているため、彼らに都合の悪
い主張を唱える人物は、背後にある暴力の標的にされてしまう。
 これではコストダウンどころか、ゴミ処理の適正価格すら誰にも決められない。今では
産廃業者の言い値で取り引きせざるを得なくなっている。故にこそ利益率は極めて高く、
大儲けできる。業者間で「ゴミはダイヤモンドだ」とも呼ばれているという。

 私の目の前にいる男たちには、それらの適正化はまさに「企業舎弟の不正を告発」する
行為であり、同業他社との競争は「シマを脅かす利権漁り」に見えたのだろう。
 産廃行政の改革を目指した期待の議員ガイヤー・シュベルンは、このような理由で殺さ
れたのだ。政争の町としてのネーディア市と利権、癒着が入り混じっての暗殺依頼だった
のだ。
 黙って聞き終えた私はコーヒーに口をつけ、もう一度訊ねた。
「なるほどね。そんな事情で依頼してきたと」
「へえ、その通りですわ。ガイヤーの野郎がいなくなったのはデカいですが、実はですね、
もう1人消して欲しいのがおりまして」
「もう1人?」
 男たちはいつしか冷たい笑いを浮かべていた。
「さっきから何度も話してますわな。市のゴミ行政担当者ですわ」
 そういうことか。
 旧市長派一掃の人事異動で着任した"清廉潔白な行政マン"――何かと産廃業者側に注文
をつけ、ゴミ行政の適正化を目指す男のことだろう。

「あいつの後ろ盾がガイヤーですからな。何としてでもこいつを抑えたいんですわ」
「殺してしまうの? 弱味を掴んで取り込んだ方が楽でしょ?」
「今まで何度も懐柔しようとしたんやが、なかなか上手くいかんでのう」
「金も接待も付け届けも全部拒否するんですわ。スキャンダルを探しても全然見つからん。
精神力が強いっちゅうか、ホンマの清廉潔白っちゅうか……」
 呆れたように男たちは溜め息をついた。動じない鉄の男に万策尽き果てたのだろう。
「せやからもう殺すしかないんですわ」
 社長が苦笑しながらとんでもないことを口にした。
「暗殺なら他にも男がいるでしょう。あなたたちの上にいる連中に協力を仰げば、私より
実力のある凄腕に頼むこともできる。なのにどうして私なの?」
 彼ら3人はそこで一瞬、口籠った。
「そりゃまあ……なあ」
「わしらとしては始末してくれれば誰でも構わんのやけど」
「折角ガイヤー暗殺で姉さんと知り合ったわけだし、もう一丁どうかと」
 …………。
 弱みを作るなら美人局にでも嵌めればいい。なのにどうしてこいつらはそうしない?
 苦笑しながら適当な理由を述べる男たちの目が泳ぎ、一瞬だけ私の方を見る。そこには
好色な視線も確実に含まれていた。
 何のことはない、要するに私と縁を繋いでおきたい下心なのだろう。あわよくば一夜を
共にできると期待しているに違いない。
 裏社会で評判の美人アサシン兼高級娼婦に興味津々――結局はそこなのだ。
 この手の気配に身分の違いはない。大人にも子供にも差はないし、貴族も平民も賤民も
関係ない。男ならばまったく同じ目と気配で女を見る。
 いかなる理由で階級や差別を設けようとも、人は神と美女の前では平等である。


 ネーディア市の郊外にある市営の清掃センターに例の職員は勤めている。
 産廃業者はこのセンターにゴミを運び込む。ひどく乱暴な表現だが、巨大な穴を掘って
そこにゴミを捨てるのが廃棄物処理だ。この建物の後方にも同様の施設がある。
 日が暮れた後、その職員はいつも一番最後にセンターを出る。市街に続くのは田畑の中
に伸びた一本道だけだった。彼はそこをいつも同じ時間に帰宅しているという。
 時間と場所が特定できる通行ルート。つまりその気になれば簡単に狙える。周囲が田畑
だから日が落ちれば人影もない。
「はい、お疲れ様」
 ロープで手足を拘束され、タオルの目隠しと猿轡で視界と声を奪われた職員が事務所に
運び込まれてきた。勿論、拉致してきたのは例の3人だ。
 この職員の退勤と入れ替わりに私が事務所に隠れ、男たちが拉致してくるのを待ってい
たのだ。
 今の私は娼婦らしい格好だ。肩紐で引っかけるだけで胸元までを大きく露出させた黒の
ドレスに身を包み、スリットからも太股を覗かせている。案の定、男たちの視線もわかり
やすくなる。
「おう、姉さん。待たせましたな」
「お疲れ様。それじゃあ段取りの通りに」
 私がうなずくと、男たちは事務所内の休憩室に標的を運び込み、仮眠用のベッドの上に
手足を縛りつけて自由を奪った。
「おう、お前らの仕事はここまでだ。先に帰りな」
「え、終わりでっか?」
「ああ、席を外してくれ。ここから先はお前らの仕事じゃないからな」
 残されるのは私と社長だけになる。
「社長がそう言うんなら、そりゃまあ従いますけんど……」
「別に俺らは見ててもええんですけどね」
 男たちは不満気な顔をわずかに浮かべ、渋々と引き下がった。
 けれどもそのときの、私の身体を舐め回すような一瞬の視線を見逃しはしない。欲望を
多分に含んだその目は、いかにも獣が獲物を逃した口惜しさが感じられた。

 それで男たちの思惑は読めた。私は何食わぬ顔で社長に話しかける。
「それじゃあ、そろそろやりましょうか?」
「ああ、ちょっと待ってくだせいや。もう少し待たんと」
 社長はそういうと、私を手招きして一緒に部屋を出た。
「どうしたの? もうやっていいんでしょう?」
「いや、あの2人が戻ってくるかもしれませんでな。ろくでもない企みをしてるのを聞い
てしまいまして」
「何のこと?」
 社長が苦笑しながら申し訳なさそうに話す。
「あのバカども、リューシア様を手篭めにする計画を立ててやがりましてな。何とかして
今日の現場からは遠ざけなアカンと思うとったんですわ。"仕事中"に襲いかかればええ、
とか何とか抜かしてましてん。アホも程々にせえと」
「ふーん、なるほどね。どうして止めたの? やろうと思えば私を好きにできるけど?」
 社長は笑いながら否定する。
「あきまへん、あきまへん。リューシア様をお気に入りのお偉いさんっちゅうのが山ほど
おるんですやろ? わしらみたいな平民のヤクザ風情が、こんな別嬪で巨乳の高級娼婦を
襲おうもんなら、あらゆる方面を敵に回してしまいますやろ。いくらわしらでもそこまで
危ない橋は渡れまへんわ」
 へらへらと笑いながら社長はそう説明した。確かに彼の言う通りで、そこまで馬鹿では
ないらしい。
「じゃあ今度は客として私に声かけてくれる? 産廃で儲けてるんでしょ? 財力はあり
そうだし、後は私を楽しませてくれれば――」
 私より10センチは小柄な社長。おもむろに手を伸ばし、彼の頬に掌をなぞらせる。
 私からの愛撫がどれほどの快感をもたらすのか、その一端を垣間見せるかのように指先
を首筋にかすらせ、甘い声で囁いた。
「いい思い、させてあげるわよ」
 この世のものとは思えないほどの快感でね。
 社長は思いも寄らぬ申し出に驚きを見せ、けれども顔を赤くして、ニヤニヤと好色な笑
みを浮かべた。

 しばらくは社長から産廃業界の裏話を聞いて過ごした。
 聞きながら適当な相槌と質問を混ぜていくと、男は必ず饒舌になる。美女が自分の話に
興味を持ってくれて喜ばない男はいないからだ。
 小半時ほど待っても先に帰らせた2人は戻ってこなかった。いつしか曇った空からは雨
粒が落ち始めていた。頃合いを見計らったのか、社長は言葉が切れたところで声の調子を
変えた。
「どうやら本当に帰ったようやな」
 仕事の合図だった。そうね、と返事して私は立ち上がる。
「先に聞いておきたいけど、死体の始末はどうするの?」
 殺人において一番厄介なのが死体の扱いだ。隠すのが難しく、決定的な証拠になってし
まう。
 たとえ発覚しても私に累が及ぶ可能性は低いが、警察の手が届くと困るのはこの男たち
だろう。
「ああ、それは心配しなくても大丈夫でっせ。わしらにお任せ下さいな」

 相当な自信だった。私が小首を傾げると、意味を察して社長は得意気に続けた。
「どでかい穴にゴミを放り込むのが産廃の処理ですわ。もう連日ネーディア市のゴミがこ
こに持ち込まれてきまっしゃろ。それでどんどん穴は埋まるんです」
 そこで私はピンと来た。
「産廃処理場はマフィアの死体置き場ってこと?」
「へへへ、ご名答。ここに埋めちまえば死体なんか絶対上がりませんで。捜索願いが出さ
れる頃にはゴミ山の下に埋まっとります。警察が捜査しようったって不可能なんですわ。
死体が出ないとなりゃあ、殺しでの立件なんてあり得ませんで」
 殺人事件最大の証拠は死体である。見つからなければそもそも事件化されない。
「この街のマフィアに盾突いた奴ら、何人もがここで眠っとるんです。今日も1人追加さ
れることになりますわなあ」
 にたりと社長の顔が邪悪な笑いに染まる。やはりこの男も下っ端とはいえチンピラだ。
こんな顔がよく似合う。
「それじゃあ、今から仕事に入るけど……殺すのは私の流儀でいいの?」
「ええ、折角リューシア様にお願いするわけですからな。わしらが刃物で殺してもつまら
んでしょう」
 にたにた笑いが好色な色彩も帯びた。この男は私の殺し方をよく知っているらしい。
「別にいいわよ、ふふふ。部屋の隅で見てたら? 素敵なショーが見られるわよ」
 私は艶のある笑みを社長に放ち、ドアを開けて休憩室に足を踏み入れた。
 社長は興味津々の顔を隠そうともせず、私の後についてきた。

 目を覆ったタオルを外すと、男は苦しげに息を荒げた。明かりがまぶしくて目はなかな
か開けていられないようだった。
「は、はあっ、んぐっ……」
 声を出せないように口を封じた猿轡だけは突っ込んだままだ。
「手荒な真似をしてごめんなさいね」
 その途端、男の目が驚愕に満ちた。女の声がするとは思ってもいなかったに違いない。
 私は可能な限り優しい声をかけ、男の拘束されたベッドに腰を下ろして靴を脱ぐ。
 腕をつきながら体を捻り、上から顔を男に近づかせていく。自然と前傾姿勢になった私
の姿勢は、腕に挟まれた2つの乳房の狭間に深い谷間を作り出す。
 戸惑いながらも男は私の胸元と顔に視線を漂わせる。私の双眸はその動きを見定めると、
表情を男に向けたまま、片腕だけを下半身へと伸ばしていく。
「ごめんなさいね。私、今からあなたを殺すの」
 私の優しげな口調とまったく正反対の言葉に、男は怯えと怪訝さが五分ずつ混じった表
情を浮かべた。
 服の上から男の股間に左手を這い回らせる。私の胸の谷間を見て、既に半ば勃起してい
た男の下半身がはっきりと膨らんだ。
 服越しにも伝わるその感触を確かめて、私は更に体をにじり寄せた。ドレスの胸元から
今にも乳房がこぼれ落ちそうな危うさを保ちつつ、残った右手で自分の乳房を見せつける
ように持ち上げてみせる。
「だけど安心して。全然痛くないし、苦しくもないわ。とっても気持ち良く死ねるのよ」
 私は甘い口調を崩さず、諭すように囁いてやった。
 手荷物から短刀を取り出し、男の服をひん剥いていく。布の上でスッと刃を走らせるだ
けで衣類はしゅるりと切り裂かれていく。抜群の切れ味を誇る刃物だ。
 手足を縛りつけているから、服を脱がせるなど面倒で仕方がない。どうせここで消えて
なくなる命。衣類など裂いてしまっていいのだ。
「大声出したところで誰も来ないわ。ま、それを一番知ってるのはあなたでしょうけどね。
だから好きなだけ叫んでいいのよ。その方が私も興奮するし」
 先に他の職員を帰宅させ、自らが一番最後に戸締まりをして施設を出る。模範的な上司
ではあるが、その規則的な日課がこの度は仇となった。
 切り裂いた服を剥ぎとって床に落とす。男はもう中肉中背の肌をさらけ出すのみだ。
 下半身を覆う男の下着を短刀で裂き、布の切れ端を引っ張れば勃起した肉棒が露出する。
「ふふふ……これからあなたは命を吐き出すのよ、ここからね」
 私は指先で亀頭を撫で回して男の勃起を更に硬化させる。手足を縛られて身動きがとれ
ない中、体をくねらせて私の愛撫から逃れようとするが、勿論逃がしはしない。
「んっ…く……」
 苦しいのか気持ちいいのか判然としない声だ。もっとも、私の指戯なのだから気持ちい
いに決まっている。
 それほどカリが張り出しているわけでもなければ、ペニスの太さに特筆すべきところも
ない。標準的な肉棒だ。まあ硬さはしっかりしているし、女を満足させるには充分だろう。
 このくらいのサイズは決して嫌いではない。私はちょっとした期待を抱えながら男への
愛撫を少しずつ強めていく。
「ん、んんんぐ……」
 顔が歪んだ。同時に肉棒からは透明な液が染み出し始める。命の危機が迫っているとい
うのに射精の準備は整えてしまうのだから、男の性の本能は現金なものだ。
 いや、むしろこれが正常か。死が迫っているとなれば尚更、自分の子孫を残そうという
本能が強く機能する。そのために性欲が激しくなるのは当然かもしれない。
 カマキリに肉体を食まれながら、断末魔に卵だけを産み落とすトンボのメス――そんな
状態なのだ。
 ならば回数も期待できるだろうか、などと思いつつ。
 私は男をより興奮させるためにドレスの胸元を緩めていった。

 胸の膨らみを更に露出させる。ブラジャーをチラつかせながら腕を寄せて谷間を深める。
猿轡の下の呼吸が更に荒くなった。
「大きいでしょ? 私の胸……こんなの目の前で見るのは初めて?」
 微笑みながら扇情的に語りかけ、右肩の紐を腕の方へと滑り落とす。するりと抜けたド
レスの下から黒いレースのブラを露にさせると、男の目はもう乳房に釘付けだ。
「普通ならこの先は男に脱がせてもらうんだけど…手を縛ってるから仕方ないわね」
 ファスナーを静かに引き下ろし、ドレスを緩めていく。
 乳房を覆う黒いブラと白い肌。この上なく美しい私の肢体が男の目を支配する。殺され
る羽目になっても男たちの欲望は本能に忠実だった。
 いや、ただ単に死への現実感が伴わないだけだろうか。凶器らしきものは服を裂いた短
刀のみ。死を宣告されても女が突然服を脱ぎ始めただけ――これでは無理もない。
 まずは自分の準備を整えたい。こうして焦らしながら脱いでいき、自らの気持ちを高め
て心身を興奮させる。
 男が私の肢体に釘付けになるのを見て自分の魅力を再確認し、そうして男を悩殺した自
分に酔い痴れながら興奮する――そんなナルシスティックな性欲の刺激だ。こうすること
で手っ取り早く私も濡れる。
 微かな音を立てて薄絹のドレスが床に落ち、その上にブラを置いた。
 それまで乳房を覆っていたものと同じデザインの黒レースのショーツ、そして私の艶め
かしい脚を引き立ててくれるストッキングとガーターベルトだけが身に貼りついている。
 ウエストのくびれと色っぽさをより強調させ、自惚れるようなS字カーブが乳房から腰、
そして太股へと流れていく。
 部屋の奥にふと視線を送る。標的からは見えない位置で、社長がまじまじとこちらを見
つめていた。くすりと微笑みかけると、彼は下卑た笑いを口に貼り付けた。もう既に股間
も硬直していることだろう。
 私の眼下で戸惑っている男も同じだった。私がまだ脱いでいる途中だというのに、もう
肉棒からは透明な汁が滲み出ている。真面目な行政マンだったというし、妻以外の女など
久々なのだろう。
 厄介な人物を消すより懐柔した方が利用価値がある――まずはそう考えるのが地下社会
の住人だ。派手に事件化して警察が動くと面倒なことになる。殺すよりも弱味を握り、前
にも後ろにも進めなくするのが常道だ。
 だが私を雇って殺そうとするくらいだから、この男は産廃業者側の誘惑にも耐え抜いて
意地を張り続けたのだ。けれども本能と下半身はメスを求めていたに違いない。
 そこに現れたのがこの私――無理からぬ反応ではある。
 存分に詰め込まれたままであろう性欲を貪り尽くしてやる。
 そう思いながらショーツを脱ぎ捨て、男に身体を見せつけたとき。
「ん、ぐぅ……!」
 標的の男が呻いた。目を閉じて背から腰を浮かせ、まるで何かに耐えるかのように全身
を硬直させていた。
 私の口の端がくすっと笑いを形作る。
 男はその直後、ペニスから白い劣情を射ち放ってしまった。精液が二度、三度と宙へ飛
び出してびたびたと男自身を汚していく。
 私のガーターベルト姿だけで射精してしまったのだ。ビクビクと肉棒を痙攣させて白濁
液を撒き散らし、快感と羞恥の混合した不甲斐なさで顔を真っ赤にしている。

「まだ触れてもいないのに……早いのね?」

 私がこう嘲るとどんな男も立つ瀬がない。それまでの快楽も欲情も興奮も忘れ、顔を背
けて早漏の辱めに呆然とするのみだ。射精した途端に理性が戻り、自己の行為を極めて冷
静に理解してしまうのも男の本能がゆえ――性能力の低さを露呈し、更に罵倒されてしま
えば恥だけが鋭い刃物のように心をえぐってしまう。不器用な生き物だ。
 指も触れずに果ててしまう男を見るのはそれほど珍しいことでもない。それだけ私には
性的な興奮を煽る魅力があるのだろう。下着姿になっただけ、あるいはブラを外した瞬間
に射精してしまう男もいるのだ。
 射精した肉棒は硬度をやや落としてはいるが、この程度で限界のはずがない。歳はまだ
30歳ほどだというし、ならばいくらでも勃つだろう。
 ガーターベルトだけを身につけたまま、横たわる男の腹上にまたがった。取り敢えず肉
棒は放置し、上から自分の身体を見せつけるように胸を張り、腕を頭上で組む。その手を
首から背の後ろへと静かに下ろしていけば、男の視界には私の肉体が否が応でも焼きつく
ことになる。
 ツンと上向きに突出した、張りのある乳房は豊かさも形も完璧で美しい。乳房全体の大
きさの割に桜色に染まった部分は小さくすぼまっている。先端の突起は常に勃起している
かのように、膨らみを形作る曲線からまるで浮いているようだ。
 触りたい、揉みしだきたい、舌で乳首を思う存分転がしたい……男ならば誰しもそう思
わざるを得ないだろう。我ながらこの乳房は素晴らしい。
 私は男の視線をじっと観察し、ゆっくりと下ろした両手を男の胸板に這わせ、彼の乳首
を指先で撫で上げてやった。
「ぐ、んぐぐ、ご……」
 堪らず男は喘いだ。いい反応だ、もしかしたらMなのかもしれない。
「男も乳首って感じるのよね…」
 彼の悶える反応に愉悦を覚えながら、自分を高める行為に染まっていった。
 右手を自分の乳房に添え、左手の指を立てながら口元へと運ぶ。そして私は――
「んっ……あん…うぅん…」
 嬌声を上げ始めた。演技ではない。
 乳房を右手で揉みつつ、舌を伸ばして左手の指を舐める。胸から伝わる快楽の信号が、
私の脳に「声を出せ」と命令しているのだ。
「んん……あぁん…」
 どこをどうすれば気持ちいいのか、自分が一番よく知っている。オナニーはそこらの男
とのセックスなどより気持ちいい。
 胸の膨らみから指先を柔らかく乳首へと伸ばす。途端に強くなる快感に喘ぎ声が大きく
なった。
 左手の指を舐める舌先にも力が入る。頭が無意識にこの行為を性交の事前準備と認識し
てしまうのか、指を舐めるとあっという間に私は濡れてしまうのだ。
 まるで指を男の性器だと見立てているように映るだろう。真下の男のみならず、部屋の
隅で私を凝視している社長も私の口元に釘づけだった。
 ずくんずくんと疼くように股間が気持ち良くなってきた。愛液がもう湿り始めている。
 私は指舐めを止め、今度は左手を首筋から胸元、そして腰から下へ……男の視線を誘い
ながら、いよいよ秘部へと這わせていく。
「ああっ!」
 思わず声が出た。胸からの刺激もかなり気持ちいいが、やはり陰部の感度は高い。陰唇
を柔らかく撫でただけで私は悶える。
「あん……あ、んん…」
 背筋がゾクゾクするような快感の波に浸りながら、指先を少しずつ中に潜らせていく。
「蜜壷」などとはよく言ったものだ。快感と引き換えるかのように私の股間は湿りをどん
どん増していく。
 そして中指の腹が最も敏感な突起を撫で回すと――
「ああぁあんっ!! ああん…はぁあ、あん…!」
 開発され切った身体は火がつけばどこまでも敏感だ。これだけで軽く達しそうになる自
分の感度に思わず戦慄してしまう。
 女の性欲がずしりと頭の奥にそびえ立ち、もっと悶えたい、もっと感じたいと要求して
くる。このまま頂点まで昇り詰めたい――が、今は許されない。
 愛液がまるで滴るように股間を伝う。もう充分だった。
 腰を浮かせて男のペニスの上に移動する。手で位置を固定するともうすっかり硬度を取
り戻していた。私のオナニーでまた興奮してくれたらしい。
 私は「ふふっ」と笑いながら男と目を合わせ、これからが本番よ――と挑発しながら腰
を沈め、男根を下の口へとくわえ込んでいく……。

 猿轡の下で男がどんな声を出しているのかもうわからない。
 ただ、屹立したペニスを呑み込んでいくときの男の反応などたかが知れている。私の中
の感触に驚愕し、それまでの意識もあっという間に失っていくのだ。
 この男も同じだった。肉棒にまとわりついてひくひくと蠢き、巧みに射精を促すと言わ
れる私の膣……味わったことなどあるはずがない。だから――
「んんんん……!」
 男根を根元まで入れた途端、ほとんどの男がそうであるように、この男もまた快感の絶
頂を迎えてしまったのだ。
 私は余裕の笑みを浮かべたまま、男が悦楽に悶える姿を冷たく見下ろしていた。
 全身――特に下半身を突っ張らせるように硬直させたまま、肉棒だけは意志を無視して
跳ね回るように震え、男は目を閉じながら私の中に白濁液を射ち放つ。
 面白いのだが、男はイクとき必ず目を閉じる。見られることに慣れていないからだ。
「ふふふ、気持ち良かったみたいね。こんなの初めてでしょう?」
 初体験なり興奮の末のセックスなど、入れただけで果ててしまうことはあったかもしれ
ない。だがこんなに気持ちいい膣は味わったこともなかろう。男はあごを仰け反らせなが
ら射精の余韻を味わっている。いや、強制的に味あわされているのだ。
 射精の勢いも快感の度合いもこれまで味わったことがないほど凄まじかろうに、男根は
萎む気配など微塵もなく私の中を満たしている。精を放つその瞬間から膣内の肉襞が亀頭
に絡みついて蠕動を繰り返す。萎えようとするベクトルより、勃起させようとする快感の
ベクトルがはるかに上回っているのだ。
「次はもっともっと……未知の気持ち良さに溺れさせてあげるわ」
 騎乗位で挿入したまま腰は動かさない。私は男の目が開くのを待ち、彼が私の肢体をま
た眺め始めたのを見定めた。
「私の中はどう? 最高に気持ちいいでしょう? 『はい』なら目を3秒閉じて、それか
らまた開けなさい」
 私の意志とは無関係に蠕動する膣の肉壁……またすぐに男が果てても不思議ではない。
 二度出したというのにもう沈没しそうな男に命じると、可愛いことにきっちり3秒、目
を閉じてからまた目を開けた。
「いいわね、正直な男は好きよ。それじゃもう一度イッちゃいなさい?」
 左手で両手の乳房を支えるようにして谷間を強調し、残った右手で胸を見せつけるよう
にいじりながら、膣を小刻みに収縮させた。
 その途端――
「が……!」
 男はまた限界に達したのだ。猿轡の下で喘ぎながらじたばたともがく。
 だが縛られているから私の中からペニスを抜くようなことはできない。無理矢理また私
の膣に昇り詰めさせられ、我慢の甲斐なく白い欲望をぶちまける……。
 びくっびくっと私の中で激しく肉棒が震えた。男が射精する時の反応だ。普通ならば考
えられないような早漏だが、私の前では男など誰でもこんなものだ。
「うふふふふ……また出してる。イク直前に中がひくついたのわかった? あれ、私がし
てあげたのよ。最高でしょう?」

 上半身を前傾させながら胸の下で腕を組み、微かに顔を上向かせる。これで男からは見
下したポーズに映るはずだ。私の豊艶なバストと加虐な目線がどうしても男の視界に入っ
てしまうのだ。
 先の台詞に対する返答なのか、また男はきっちり3秒だけ目を閉じた。面白くてまた私
はくすくす笑ってしまう。
「正直な男は好きよ…普段は胸も好きなだけ触らせてあげるけど、今日は駄目ね」
 腕を縛っているのだからやむを得ない。仮に拘束を解いてもこの男は逃げずに私とのセ
ックスを選ぶ気がするが――仕事だから万全を期さねばならなかった。プライベートなら
もっと楽しむのだけど。
「忘れてないよね…私、今からあなたを殺すの」
 私の顔にはサディスティックな笑みが浮かんでいることだろう。
 男が一瞬だけ怯えた顔になるが、疑問の色彩も目で訴えていた。殺すのならどうしてセ
ックスなのか理解できないのだ。
「すぐにわかるわ…今からあなたはね、男が一生に味わう何千倍、何万倍もの快感を得る
のよ、短時間の間にね。女なら誰でも耐えられるんだけど、男の脆弱な肉体と精神じゃ受
け止め切れないの。廃人になるか死ぬかのどちらかね、くくく……」
 まだ男は半信半疑のようだ。まあすぐには信じられまい、セックスで死ぬなど考えたこ
ともないだろう。
 俗話として腹上死は聞いたことがあろうが、性的興奮が心血管の異常をもたらすそんな
副産物で死ぬのではない。純粋な性感に耐え切れず、男は死ぬのだ。
「さあ、始めるわよ……走馬燈も見えないくらいの快感で搾り取ってあげる!」
 もう一度冷たく笑い、私はわずかに身体を浮かせると――男を射精させるために腰を振
り始めた。
 くいくいとリズミカルに前後させるグラインドは一定のリズムを刻み、膣襞にペニスが
しごかれているのを思い知らせるように腰を突き上げる……。
「ああああああああ!」
 猿轡を噛まされている男が、吠えた。
 そう――騎乗位で腰を突き上げるのが男とは限らない。
 腰を深く沈めて下の口に肉棒をくわえ込んだ。そこから男根の角度に合わせて腰を振る
のが私の得意な技巧だ。上を向いたペニスに近い角度でグラインドさせれば、自然と腰は
突き上げられ、しかもこれは男が最も膣内の快感を受けやすい腰使いになる。
 そんな腰の振りが私の名器によって強化されれば男などひとたまりもない。文字通り精
液を搾り取られてしまうのだ。
 とてつもない快感の前にオスは常に無力である。この男のように激しい叫び声を上げな
がら、延々と射精するしかない。断続的な強制射精が強い快感を生み出し続ける。
「あああ! ぐ、は、あああっ……!」
 快楽に悶える喘ぎ声と、私の中にドクドクと何度も射ち放たれる白い情熱――膣の中で
の痙攣と勢いの激しさから、射精した回数もはっきりわかる。

「あははははは! どうしたの、この程度も耐えられないなんて!」

 サディスティックな悦楽が頭に生まれ始めるともう止まらない。男のプライドを叩き潰
す言葉責めも自然と口から飛び出してしまう。

「これじゃ女を満足させるなんて無理ねぇ? ほらほら、またイッちゃうの? こんなも
のなの? あっはははははは!」

 口を半開きにしながら、男は私の中に精液を注ぎ込み続ける。本格的に腰を振り始めて
からもう何度果てたか。まだ数分と経過していないのに。
 激しい前後運動から円を描くようなローリングに移行しながら男を見下す。膣を締めつ
けながらクルンクルンと腰を捻るだけで、男は息も絶え絶えになっている。
 決して途切れない快感が強制的な勃起を繰り返させる。休みなく繰り返される私の腰の
動きが、再び男をよがらせ、ビクビクと肉の柱を震わせ、私の中で果て続けるのだ。
 どんなに射精しても私の膣襞がにゅるにゅると蠢き、圧倒的な快楽と絶頂が白濁液を搾
り取る。射精した直後でもお構いなしだ。
 男の潮吹き、快楽地獄――そんな言葉がこの男を呑み込んでいる。何度射精しても勃起
が収まらない経験など、今まで考えたこともなかろう。
 しかも何度出してもあっという間に果ててしまうのだ。「射精した分だけ長持ちする」
などという定説すら通用しない。
 ついでに私が指を伸ばして男の乳首を愛撫すると――
「ひああああっ!!」
 彼の喘ぎ声が更に甲高くなる。もう言葉の体を成していない。それと同時に、私の膣の
中に収められた肉棒が硬さを増した。
「うふふふ……あなた、ここが弱いのね?」
 自分が今、どんな顔をしているのかがわかる。サディストの顔だ。相手の苦悶を見て喜
びと快感を覚える加虐の嗜好。
 いつも男にぶつけている言葉が自分に跳ね返ってくる――「人間は痛みには耐えられて
も快感には耐えられない」。それは私も同じだった。ゾクゾクと湧き上がってくる欲望の
ような高揚が、奮い立つほどに私を興奮させる。
 こうなると私はもう止まらない。男の乳首を指先で転がしながら、腰の動きも容赦する
ことはない。
 私もいつの間にか感じ始めている。精神的な充足が脳から快楽物質を分泌させている。
 男が文字通り力尽きるか、それとも私が昇り詰めるか――次第に強まっていく私の肉体
の快感にそう思ったとき。
「うっ!」
 身体の下の男が小さくそう叫び、一際激しくビクンと震えた。
 数秒ほど硬直した後、彼の身体からは一気に力が抜け、まるで崩れ落ちたように動かな
くなる。射精に耐えようとする緊張も抜け、まるでただの抜け殻だ。
 途端に男の股間からも力が失せる。私の中に最後の精液を放ってそれっきりとなってし
まった。
「……あーあ」
 私は呆れたようにつぶやくしかない。
「この程度で死んじゃうの? 情けない男ね……折角、私がイクところを見せてから殺し
てあげようと思ってたのに」
 何もかも中途半端だ。ようやく気持ち良くなってきたところで絶命とは。
 脈もなければ心臓の鼓動もない。目を開けてみても反応がない。身体の熱もどんどん冷
めていっている。今の今まであんなに熱くしていたくせに。
「物足りないわね……」
 小さくつぶやいて腰を浮かせてペニスを抜く。身体の火照りが中途半端で欲求が解消さ
れないままだ。
 気だるい気持ちでふと部屋を見回せば――私に仕事を依頼してきた社長がいた。部屋の
隅で興奮と驚きをその表情に貼り付けながら、こちらに釘付けになっている。

「……ふふっ」
 私は挑発するように笑いかける。
「仕事は終わったわ。もう私はプライベートよ」
 彼の視線から痴態を隠そうともせず、むしろ見せつけるかのように身をさらけ出す。
「まだイッてないのに終わっちゃった……」
 舌なめずりをして男から目を離さない。じっと見つめ続ける。蛇が獲物を睨むように。
「見てるうちに興奮したでしょ……?」
 甘ったるい声を作って2人だけの部屋の中で囁き、掌で円を描くように自分の乳房を揉
んでみせた。
 身体を小さく捻り、強調させた女体の曲線がその視界に収まるような姿勢をとる。乳房
の張り出しと腰のくびれを存分に意識させて男を誘った。
 この男が誰よりも興奮していたに違いないのだ。私が標的の前で服を脱ぎ、男を何度も
悶えさせ、最後は騎乗位で精液と命を搾り取った。それを一番間近の特等席で見ていたの
だ。今頃その股間の勃起からは先走りの液くらい滲み出させているのではないか。
 物欲しそうな顔を見せつけ、私は脚をM字に開いた。
「前戯もいらないわ。早くここに入れて……」
 指先で膣口を開き、もう一方の手で乳房を揉んで自慰を行い、熱っぽい吐息を漏らして
みせる。
 男はすぐに耐えられなくなったようだ。かちゃかちゃと金属音を鳴らしてベルトを外し、
あっという間に裸になると、文字通り私に突進してきた。既に興奮で息が荒い。
「リューシア!」
 私への敬称も忘れ、ただ男の本能のままに社長は抱き着いてきた。強引に私をベッドに
押し倒し、勢いのままに唇を奪い、荒々しく乳房を揉み、そして待ち望んでいたかのよう
にその肉棒を私の中へと押し進めてくる。
「はっ…あうっ!」
 繊細さのかけらもない。挿入の際に走った痛みに耐えながら、次いで力を入れ過ぎた乳
房の揉みしだき方に私は苦悶の声を上げた。
 だが快感に喘ぐ姿と見分けがつく男はそれほど多くない。優しい愛撫へ移行するつもり
もないだろう。
 ぬるぬると男根が中に沈み込む感覚は元より好きだが、痛みを伴うようでは話にならな
い。ただ男の欲望を満たすためだけ、情欲を処理するだけなのだろう。もっとも私がそう
仕向けたのだけど。
「お……おおおっ!」
 だが悶え始めたのは社長だった。そんなに射精したい一心で挿入して、私の中に耐えら
れるはずがない。私の膣は快感の余りに人が死ぬほどの名器なのだから。
 案の定、入れる前の威勢の良さはどこへやら。もう社長は腰を動かすことができない。
奥へ突こうが中から引き抜こうが、その刺激だけで絶頂に達するのだ。

「ねぇん、動いて……」

 私は下から男を見上げてくすりと笑い、動けないままの男を下から刺激する。下半身に
力を入れ、膣の中を少し締めると――
「う、おお……中が、中が……!」
 腰をまともに振ることもできず、それだけで男は限界を迎えた。
「も、もう……出る!」
 身体をわななかせながら私の中に精をほとばしらせた。びくっ、びくっと激しく痙攣し
ながら白濁液を放っている。
「うあああ…な、なんだ!」
 社長が驚愕の声を上げた。私を抱く男に共通する反応と言ってもいい。中が蠢く膣など
初めてに違いない。腰を使わずとも何度だってイカせてやれる。
「何回出してもいいわよ……」
 くすくすと笑いながら私は膣の入り口を強く締め、男の腰に長い脚を絡みつかせた。こ
れでもう、突くことはできても抜くことはできない。
「私が満足するまで突き続けなさい……途中で何度果ててもいいわよ」
 余裕の笑みと私の切れ長の瞳。この2つが合わさると男は私の姿を見てどう思うか。そ
れももう私は知り尽くしている。
 私の氷のような美貌と態度にゾクリとするような快感を覚えるのだ。
 心の奥に今まで感じたことのないような被虐の悦びを芽生えさせ、私の凄艶さに屈服し、
快楽の中で私に劣ることを否応なく自覚する。拒否したいのに拒否できない快感と性的な
興味を覚え、理性など吹き飛ばされて私を求め、従うしかなくなるのだ。
 この男もそんな凡夫に過ぎない。肉棒を圧倒的な快感で支配され、逃れるために腰を引
くこともできない。あと三度も射精すれば逃げようとする気力も意欲も失うだろう。
 男の頬を伝う汗がぽたりと落ちる。このままでは危ないと本能的な恐怖を感じているの
だろう。だがもう逃げることもできない。
 屈服や恐怖から逃げ出すか、私への興味を満たしながら快感に溺れるか――そんな葛藤
がうかがえるが、もう残された道がないことにも気づくだろう。
 どうせ中から抜くことができないなら、この女の快感に溺れてしまったほうがいい。そ
う考えるに違いないのだ。
「う、うう、くおっ」
 声にならない声を上げてついに男は腰を振り始めた。突き入れる度に中で暴れる肉棒が
気持ちいい。
「ああん! ああっ…はぁん……」
 快感に自然と喘ぎ声が出る。中途半端に燃えていた肉体が、更なる燃料を得て激しく燃
え盛り始めた。
(所詮、男なんてこんなもの……)
 心の中だけはいつものように冷め切っていた。身体だけを興奮させ、私は男が一突きす
る度の肉欲に身を浸す。
「ああんっ、ああ……んんっ…あん!」
 社長のピストンにはテクも何もなかった。自分に襲いかかる快感をさばき切るだけで精
一杯なのだろう。私が感じているかどうかなど考える余裕もないに違いない。
「ううっ!」
 1分と持たずに二度目の絶頂。私は中に出された感触を確認しながら、膣の襞を更に動
かしてみせた。
「うあ……あああ!」
「もっとして……こんな程度で力尽きちゃ駄目よ……」
 二度も射精したばかりなのに、私の膣壁が男のペニスを無理矢理に勃起させる。中の感
触で再び男が硬くなるのがわかる。

「こんなに元気になるのなんて久しぶりでしょう…?」

 私の問いかけにも社長は応じなかった。応じられるはずもないのだ。
 硬くなった男根はすぐにもまた白い情熱を吐き出したくて、ビクビクと震え始めつつあ
るのだ。私に対応している余裕などないだろう。
「ま、また出そうだ……」
 声が半ば乾いている。こんなはずではないのに、という気持ちだろう。
「ほら、腰を止めちゃ駄目よ……私が満足できないわ」
 下から酷薄な笑みを向けると男は再びペニスをピストンし始める。それに呼応するよう
に私も喘ぐ。手を抜いても数分と持たない社長の精を何度も注ぎ込まれながら、私も少し
ずつ上昇していく。
 数分もそんな情交を味わいながら、私は中をかき回される快感に震えていた。
 怯えるような表情で快感に悶え、何度も果てる男の姿はそれ以上に私を興奮させてくれ
る。私が楽しめば楽しむほどに快感は増大していく。
「ああん! いいわ、凄く気持ちいい……く、あああん…」
 男のピストンに合わせ、豊かな乳房を縦横に揺らしてみせた。社長はもう快感と情欲に
溺れているが、それでもこの視覚からの誘惑は男を更に奮い立たせるらしい。
 ただ身体を立てて腰を振るのが精一杯だった社長が、それで思い出したかのように私の
乳房を揉み始める。
「ふああああっ!」
 火がついていた私の身体は乳房からの快感にびりびりと震えた。電流のような悦びが全
身を駆け抜け、身体の芯を貫く肉棒も激しい電撃を埋め込んできてくれる。
「ああん! もう、もう…私もう……イキそう…!」
 絶頂の予感がとてつもなく心地いい。昂った性的な興奮と肉体の快感が一気に爆発して
くれそうだ。
「もうイッちゃうわ…イク、イッちゃうぅ……!」
 緩やかに上昇カーブを描いていた快楽の指数が高みに向かって突然跳ね上がり、同時に
男性自身が中へ中へと押し広げ、私の性感帯をえぐった瞬間、頭の中で光が弾けた。

「あああっ…ああああ――っ!」

 快楽の奔流がどっと脳から溢れて全身を満たしていく。
 痺れるような快感に身を捩じらせ、おとがいを反らして悶え、喘ぎ、私は性感の絶頂に
達した。
 同時に私の膣内は激しい収縮を起こし、男根を嬲るように締めつけたに違いない。
 社長は最後の射精での快感を毫も逃すまいと、これまでよりも激しい勢いで腰を振り続
けた。
 そして私を頂上に導いた直後、彼は初回の射精と違わぬ勢いで膣内に精液を放った。
「りゅ……あ……」
 私の名前だろう。その一言を残し、彼は絶頂の頂点で全身を一瞬硬直させ、下半身だけ
を激しく痙攣させていた。
 それから数秒。精液を出し切るとばったりと力を失い、男は私の上に覆い被さるように
倒れ込んできた。
 もうこの身体が自分の意志で動くことはない。

「うふふふふ……なかなか良かったわよ」
 もの言わぬ身体となった社長を床に転がし、私は股間のぬめりをタオルで拭き取った。
 男2人を相手に中に何度射精させてやっただろう。こんな奴らの子種ごときで妊娠して
しまうような私ではないので、心配する必要もない。
 今ではどちらも死体となって転がっている。
「まったく、男ってバカよね。目の前で人が殺されたっていうのに、ちょっと誘惑するだ
けで飛び込んでくるんだから。入れたらどうなるか見たばかりでしょうに」
 勿論、私の膣の中のことだ。
 殺そうとしなければ殺さずに済む。究極の快感だけを男の身体に叩き込むこともできる
が、この男もあわよくば私を抱きたいと思っていたのだから本望だろう。
 私はまず服を身につけた。脱ぎ捨てた下着を身につけ、ドレスをまとって高給娼婦の格
好に戻る。そして手荷物の中からあるものを取り出し、ガーターベルト付近の太股でちょ
っとした細工をしておいた。
 部屋の隅に置いてある小さな鏡で乱れた髪を整える。これでここにもう用はない。
 事務所のドアを開けて隣の建物に移り、しばらく様子をうかがった。
 真っ暗になった中、聴覚を研ぎ澄ませて待っていると――案の定だった。
 男2人が足音を殺して事務所へと向かっていく。既に夜闇に慣れた私の瞳は、彼らが何
者なのかを捉えていた。
 標的殺害の前に社長から席を外すように命じられたあの2人だ。
 ドアを開けて中に入っていった直後、叫び声が聞こえた。変わり果てた2人の姿を見て
動揺しているに違いない。
 私はその声を聞きながら動き出す。足音を殺して事務所へ向かい、入口から10歩ほど
離れたところで立ち止まった。
「あの女や、あいつが殺したんや!」
「まだ遠くには行ってへんやろ、すぐ捜すで!」
 そう叫びながら2人が事務所から飛び出してくる。当然、彼らが目にするのはそこで仁
王立ちとなった私の姿だ。
 驚愕と戸惑いを顔に浮かべながら、腕組みをした私を睨みつけてくる。
「社長まで殺しやがって……! 女やからって容赦せえへんで!」
「どうなるかわかっとるんやろな。ここにはもう俺たちと貴様しかおらん。どんな大声を
出しても、泣いて叫んでも助けなんか来んのやぞ……」
 怒りが半分、性欲が半分――まさにそんな顔だった。
 この男たちなど恐ろしくもない。どうせ私を凌辱することしか考えていない。
 抵抗せずに交わりながらあの2人のように殺してもいいのだが、もうそこまでしてやる
義理もないだろう。

「……どうせ最初からそのつもりだったんでしょう?」
「何?」
「本当はあなたたちは市の職員なんか殺す必要はなかった。それこそ美人局にでも嵌めて
弱味を握れば、あの程度の男は簡単に言いなりにできる。ホワイトカラーやエリートほど
暴力に弱いからね」
 見透かしたように笑うと、男たちはぐっと詰まった。
「なのにどうしてそうしないのか。何故いきなり暗殺なのか。殺すにしてもどうして私だ
ったのか。私よりもっと安くて腕のいい殺し屋にスマートな処理を頼むこともできるのに、
どうして私だったのか。これらの疑問を繋げることくらい簡単だったわ」
 初対面でこの男たちの策略を聞いたときからわかっていたことだ。
「私を抱きたかったんでしょう? でも正攻法では高級娼婦があなたたちのような凡俗の
相手をしてくれるはずもない。だから私に暗殺を依頼して、その隙を見て襲おうとしてい
た――そんなところでしょう?」
 男たちは絶句していた。やはり図星か。
「社長さんがベラベラしゃべってくれたわ。あなたたち2人が私を襲う計画を立てていた
のを知ったから敢えて遠ざけた――なんて芝居まで打ってね。
 なかなか考えたわね。でも最初から3人ともグルだったんでしょう? 先にあなたたち
を遠ざけたことにして、私の警戒心を解こうとした。そんな演技までして私に隙を作らせ
ようとしたんでしょう?」
 私を抱くためにどうすればいいか、そのついでに邪魔な行政マンも殺してしまえ――そ
れがこの計画の真相だ。
「あんた、娼婦や暗殺者より探偵でもやったほうがええんやないか?」
「ふふ、社長も産廃業者なんかより役者を目指したほうが良かったかもね。脚本家の才能
はなかったみたいだけど」
「まあええ……そこまでわかってんなら話は早いやろ。あんたもすぐに逃げればいいのに、
残ってるとは間抜けの極みや。悪いが力づくで手篭めにさせてもらうで」
 2人の屈強そうな男が腕まくりをしながらじりじりと距離を詰めてきた。
 そのとき私は感じた。空からポツリと水滴が落ちてくるのを。雨だ。
 ますます好都合だ。私はほくそ笑む。
「ここにはもう私とあなたたちだけ。どんな大声を出しても、泣いて叫んでも助けなんか
来ない――そう言ったわね?」
「ああ、言うたで。あんたは今からわいらに犯されるっちゅうわけや」
「たっぷり気持ち良くしてやるから安心してくれ。ま、最後は殺すがな」
「そう……つまり――」
 私は挑発するように笑う。娼婦ではなく暗殺者の顔でだ。
「誰にも聞こえないってことよね? 銃声が響いても」
 その言葉に男たちはにじり寄る足をぴたりと止めてしまう。
「なんやと?」
「銃……声?」
 間髪入れずに私は動いた。
「三文芝居で見聞きしたことない?」
 ドレスのスリットに手を差し込み、太股から金属の塊を取り出して男たちに向ける。
「美人スパイのガーターベルトに吊り下げられた拳銃――とかね」
 乾いた音が2回、轟いた。


 ぽつりぽつりと落ちてきた水滴が激しさを増していた。
 私が殺した行政マンと社長は生前とは異なり、精を吸い取られたかのようにげっそりと
痩せ細って果てている。親族が身元確認をしようものなら絶句するに違いない。これが本
当に自分の家族なのかと。
 残る2人は事務所の外で血を流して倒れたままだ。雨が流してくれるから血液という証
拠を隠滅する必要ない。後はどう死体を始末するかだが、4人となると私の細腕には余る
重量だった。
 雨の中を台車で運ぶしかないのか――と思っていた時だった。
 事務所のドアががちゃりと開く。
 まずい、何者――と思い、ガーターベルトに吊り下げたピストルに手を伸ばす。
「ああ、やはりこちらでしたか、リューシア様」
 入ってきたのは私によく仕事を持ってくるあの男だった。屈強な身体を窮屈そうなスー
ツに押し込んでいる例の彼である。
「リューシア様のことですから身に危険が及ぶことはないと思いましたが、念のために来
てみたのですが……大立ち回りだったようですね。4人とは」
 私は安堵して銃を太股のホルダーへと戻した。
「本当は1人のはずだったんだけどね。私を見て性欲を抑え切れなくなったみたいよ、残
りの3人は」
 サングラスの奥の瞳はうかがい知れないが、きっと呆れていることだろう。私も男たち
の見境のなさには呆れるくらいなのだけど。
「雨も降ってきたので傘をお持ちしました。お帰りの際にどうぞ」
 男がその武骨な手で傘を差し出した。素直にこれはありがたい。しかも直径の大きな傘
を用意しているのが心憎い。もし風が吹いてきても濡れにくくなる。
「もう、本当に気が利くわね。ありがとう、使わせてもらうわ。でも、その前に死体の始
末をしたいから協力して欲しいの。私の力じゃ動かせないからね」
「ええ、構いませんが。そのつもりで参りましたし」
 彼はそこで干からびたような2人の死体を見やり、小さく嘆息した。
「しかしどうしましょうか。埋めるにしてもこの雨です。4人分の穴を掘っていたら朝に
なってしまいますよ」
 ただ埋めればいいわけではない。簡単に発見されたり、死臭を嗅ぎつけた野犬などに掘
り返されたりしては困るのだ。
「ああ、いいのいいの、そんな苦労しなくていいのよ。こっち来てくれる?」
 私は事務所から出て傘を差した。彼についてくるよう促し、この産廃処分場のメイン施
設へ入っていく。
 コンクリートで作られた建物の中に大型の機械が設置されていた。
「あなた、この装置やシステムの使い方は知ってる?」
「ええ、心得ております。そこにあるコンベアにゴミを載せ、この部屋の装置を起動させ
るだけですから」
「さすがに物知りねえ。じゃああの死体4つ、ここで処分しちゃってよ」

 産廃処理施設の穴に死体を埋めれば絶対に見つからない。処分場は死体置き場――先ほ
ど社長が自ら私に説明してくれた。まさか自分がそこで眠ることになるとは思いもしなか
っただろう。
「ここまで死体を運ぶことくらいは手伝うからさ」
「ありがとうございます。では時間も惜しいですし、早速始めましょうか」
 私とこの大男は傘を開いて外へ出た。すぐ近くに転がっていた台車を拾い、死体を載せ
て往復すること4回。死体を載せてスイッチを入れると、装置の軌道音とともにコンベア
が動き始めた。
 機械の奥に冷え切った肉塊が呑み込まれていき、すぐにその姿も見えなくなる。
 もう二度とこの遺体が陽の目を見ることはない。薄汚れたゴミとともに冷たい穴の下で
眠り続けるのだ。
 勿論、ゴミはそのまま投棄されるわけではない。可能な限り小さく砕いてから廃棄しな
ければならない。強い圧力をかけて押し潰し、破砕してから穴の中に埋められる。
 あの男たちの身体も例外ではない。今頃もう骨はかけらになるまで砕かれ、肉は捻り潰
されているだろう。いい気味だ。
 ややあってコンベアの動きが止まった。施設の最奥に達し、最終処分の巨大な穴に廃棄
物が落ちたのだ。
 男が無表情のままにつぶやいた。
「本当はこの装置も役目が違うのでしょうが……」
 私はくすりと笑って言下にそれを否定した。
「どうして? ここは産廃処分場でしょう? だったら何も違わないわ」
「……と言いますと?」
 部屋の壁に背を預け、軽く足を組みながら私は続けた。
「死体は暗殺業の廃棄物よ。ここで処分するのは当然だと思うけど?」
「……なるほど、確かにそうかもしれませんね」
 彼は振り返らずに装置のスイッチを切った。私はそれを見届けてから建物を出る。まだ
雨は降り注いでいた。
 男が出てきたところで私は彼の腕に抱きついた。
「……リューシア様?」
「雨が降ってるから寒いのよ……このままくっついていてもいいでしょ?」
 甘い声と科を作って上目遣い。乳房を押しつけながら媚を売る。
「町に戻ってホテルに行きましょ…今日の男たち、大したことなくて……」
 大抵の男はこれで鼻の下を伸ばす――のだが、やはりこの男は鉄仮面のままだった。
「腕を組む程度は構いませんが、夜のお誘いはお断りいたします」
「えー……どうしてもダメ?」
「そればかりはお受けできません。私に対する暗殺依頼がどこから出ているかわかったも
のではありませんから」
 いつもの彼の言い訳だ。こう言い出したら彼は譲歩しない。本気で要求すれば、あるい
は命じれば抱いてくれるのかもしれないが……まあ、試すような時でもないだろう。
 彼の差した傘の下には私の身もすっぽりと収まり、雨露に濡れることもない。
 恋人同士のように腕を組んだまま人気のない道を歩き、私たちはそのまま夜のネーディ
ア市街へと戻っていくのだった。


                            THE END
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